どの企業の事例か
世界的な決済テクノロジー企業であるMastercardの事例です。同社はクレジットカードの不正利用という長年の課題に対し、AIを活用してリアルタイムで取引リスクを評価するシステム「Decision Intelligence」を構築し、カード発行会社である金融機関向けに提供しています。
解決したかった課題
Eコマースの拡大などに伴い、クレジットカードの不正利用は巧妙化し、その手口も多様化しています。従来のルールベースの不正検知システムでは、新たな手口への対応が遅れたり、正規の取引を誤ってブロックしてしまう「誤検知(フォールスポジティブ)」が顧客体験を損なったりする課題がありました。
AIをどう使ったか
Mastercardは「Decision Intelligence」と呼ばれるAIプラットフォームを活用しています。 これは、年間1,430億件にも及ぶ取引データを機械学習で分析し、個々の取引が不正である可能性をリアルタイムでスコアリングするものです。 カード発行会社はこのスコアを参考に、取引を承認するか、追加認証を要求するか、拒否するかを瞬時に判断できます。 さらに新しい生成AI技術を導入した「Decision Intelligence Pro」では、1兆ものデータポイントをスキャンし、エンティティ間の関係性を評価することで、検知精度をさらに向上させています。
導入効果と見るべきポイント
- ▸生成AI技術の導入により、不正検知率が平均で20%、ケースによっては最大300%向上したと報告されています。
- ▸正規の取引を誤って拒否するケース(誤検知)を85%以上削減し、顧客満足度と加盟店の売上向上に貢献しています。
- ▸見るべきポイントは、単に不正を検知するだけでなく、「誤検知を減らす」ことで顧客体験を大きく向上させている点です。セキュリティ強化と利便性の向上という、相反しがちな課題をAIで両立させている好例と言えます。
日本企業が参考にできること
膨大なトランザクションデータを扱う金融、小売、通信などの業界では、同様のアプローチでリアルタイムのリスク評価や不正検知が可能です。自社ですべてを開発するのではなく、Mastercardのような企業が提供するAIサービスをAPI経由で利用することも、迅速な導入のための有効な選択肢となります。顧客体験を損なわずにセキュリティを強化するというバランス感覚は、多くの企業にとって重要な示唆を与えてくれるでしょう。
