どの企業の事例か
今回取り上げるのは、世界146の国と地域で約10,000軒の宿泊施設を展開する世界最大級のホテル・ホスピタリティ企業、マリオット・インターナショナルです。 同社はロイヤルティプログラム「Marriott Bonvoy」を通じて、約2億8300万人の会員に一貫した高品質な旅行体験を提供することを目指しています。
解決したかった課題
従来のホテル検索は、行き先や日付が決まっていることを前提としたフィルター形式が主流でした。しかし、旅行者のニーズは「週末にリラックスできるスパがあるホテル」「ペットと泊まれる山小屋風の施設」など、より曖昧で多様化しています。 このような直感的でパーソナルな要望に応え、複雑な旅行計画のプロセスを簡素化し、顧客体験を向上させることが大きな課題でした。
AIをどう使ったか
マリオットは、生成AIを活用した新たな会話型検索体験「Ask Bonvoy」を導入しました。 このツールは、ユーザーが自然言語で入力した旅行の目的、場所の雰囲気、希望するアメニティ(ダイニング、スパ、ゴルフなど)を解釈し、マリオットのポートフォリオの中から最適なホテルを提案します。 重要なのは、インターネット上の不確かな情報ではなく、マリオットが独自に検証した施設データのみを回答の根拠としている点です。 これにより、情報の信頼性を担保しています。この機能はまず、一部の会員向けにベータ版として提供され、フィードバックを元に改善を進めていく計画です。
予想アーキテクチャ
以下は公開情報と一般的な構成から推定した予想アーキテクチャです。実際の内部構成を断定するものではありません。
- ▸入力データ: ユーザーからの自然言語による検索クエリ(「静かなビーチでのんびりしたい」など)。Marriott Bonvoy会員データ(過去の宿泊履歴、好み、会員ランク)。ホテルの詳細データ(施設情報、アメニティ、空室状況、料金)。
- ▸AI処理・モデルまたは検索層: マリオット独自のAIアーキテクチャを基盤としています。 提携先の技術(Microsoft Azure OpenAI Serviceなど)を活用した大規模言語モデル(LLM)が自然言語を解釈し、RAG(Retrieval-Augmented Generation)技術を用いて、マリオットが保有する検証済みのホテルデータベースから正確な情報を検索・参照して回答を生成します。
- ▸業務システムへの出力: マリオットの公式サイトやモバイルアプリのUIに、パーソナライズされたホテル提案をテキストで表示。ユーザーがホテルを選択すると、既存の予約システムにシームレスに連携し、予約手続きを完了させます。
- ▸監視・ガバナンス: 不適切な応答を防ぐためのコンテンツフィルタリングや、利用状況のモニタリング。ユーザーからのフィードバックを収集し、継続的にモデルの精度を改善する仕組みが導入されていると推測されます。
導入効果と見るべきポイント
- ▸確認できる効果や変化: 従来の日付・場所検索から、より直感的で会話的な旅行計画体験へとシフトしました。 これにより、まだ行き先を決めていない潜在顧客に対しても、魅力的な提案を行い、エンゲージメントを高めることが期待されます。
- ▸読者が注目すべきポイント: この取り組みの核心は、単なるAI検索ではなく、「信頼できるデータソース」に限定している点です。 AIの回答の正確性を担保することで、ユーザーは安心して旅行計画を進められます。顧客データを活用し、自社プラットフォーム内で体験を完結させることで、顧客との関係を強化する戦略です。
- ▸注意点: ベータ版からの段階的な展開が示すように、グローバルな多言語対応や、より複雑な要望への対応、そしてAIの応答速度とコストのバランスが今後の課題となります。
日本企業が参考にできること
マリオットの事例は、顧客との対話を通じてニーズを深く理解し、自社が持つ信頼性の高いデータを活用してパーソナライズされた価値を提供するという、AI活用の王道を示しています。あらゆる業界において、自社の製品やサービスに関する正確なデータベースをAIと組み合わせることで、顧客の曖昧なニーズに応える「相談相手」のような役割を担うことが可能です。まずはFAQ対応など、限定的な領域から会話型AIを導入し、顧客とのエンゲージメントを高めていくアプローチは、多くの企業にとって参考になるでしょう。
